オルガンホールを夢見て

カザルスホールに思うこと


2010年1月14日
 
カザルスホールに思うこと
 
 1月14日、古楽情報誌「アントレ」主催のガラ・コンサートをカザルスホールに聴きに行きました。「アントレ」からCDを出している、ソプラノ、リコーダー、フラウト・トラヴェルソ、バロック・オーボエ、リュート、ヴィオラ・ダ・ガンバ、そして4人のチェンバロ奏者の演奏を、聴き比べることが出来ました。楽器が異なれば、立ち現われる音楽の姿も随分異なります。でも同一楽器でも(今回は4人のチェンバロ、そのうちの一人が岡田龍之介さん)、演奏者が異なれば、その音楽はかなり様相を異にします。そんな愉しみ方が存分にできたコンサートでした。
  話がかなり飛びますが、昨年「カラヤンがクラシックを殺した」(宮下誠著、光文社新書380)を読んで、驚愕と共鳴を覚え、昨年6月朝日カルチャーセンターで開かれる宮下さんの講義を申し込みました。愉しみにしていた矢先、宮下さんの訃報が届きました。残念な思いと、信じられない思いで、心が混乱しました。それから間もなく、宮下さんの「お別れの会」を有志で開くとの知らせが届きました。どんな方だったのかせめて人柄だけでも知りたく、7月2日遥々西方町から出かけて行きました。そこで、チェンバロを演奏なさったのが岡田龍之介さんでした。大学では後輩、大学院では先輩だった方です。
  私は出身校である東京芸術大学音楽学部楽理科にどうしてもなじめなく、あまり親しい人を作らず過ごしました。岡田さんとも、当時会話らしい会話をしたことがありません。でも、宮下さんの記念会で20数年ぶりに出会い、懐かしさも相まって、思わず語りかけ、お話してしまいましたら、何だか話が弾んでしまいました。岡田さんは宮下さんと親しく、上記の著書の「あとがき」にも登場なさいます。
  そんな個人的理由で、カザルスのガラ・コンサートでは岡田さんの演奏がとりわけ気になりました。
  私はチェンバロは、シャンシャンする音が耳に衝いて、途中で飽きてしまうことがよくあるのですが、岡田さんの音は美しく、引き締まって、少ない音で(曲の所為もあるでしょうが)意味深い音楽を創り上げていました。パーセルのグラウンドハ短調は、しっとりと心に沁み入る美しさがありましたし、L.クープランのパバーヌ嬰ヘ短調は荘重な味わい深い音楽でした。チェンバロでもこんな深遠さを表現できるのか!と驚きました。コンサート後お会いでき、宮下さんのこと等お話しましたら、もっと深くお話ししてみたい!との思いが過ぎりました。家の蔵で、ぜひ演奏して頂きたい、とも思いました。
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  今回、岡田さんを挟んで宮下さん、また宮下さんからカザルスホールへと思いが広がりました。カザルスホールはあと約2カ月で閉館です(昨年3月にもここに書きましたが・・・)。そんなことが本当に起こりうるのだろうか?と、まだ信じられない思いです。室内楽にふさわしいコンサートホールとして、日本では草分け的存在のホールです。それにしてはあまりにも短すぎる運命。ひとつの貴重な歴史を築きあげるくらい活躍してほしかったホールです。
  閉館に関連して大きな問題は、アーレント作のオルガンです。天才的とも言われるオルガンビルダー、アーレントのオルガンは日本に3台だけです。一つは、東京都東久留米市「聖グレゴリオの家」にある、姿も音色も美しい小型のオルガン。もう一つはつくば市「バッハの森」にある、これより少し大きめのオルガン。そして、カザルスホールのオルガンです。この中で、カザルスのオルガンが一番大きく、また、一般に開かれているのもここのオルガンです。カザルスホールではオルガンコンサートが頻繁に開かれ、チケットを買えば誰でも聴けます。また貸しホールもしていますので、コンサートを開きたいオルガニストは、使用料を払えば、借りることもできます。「聖グレゴリオの家」、「バッハの森」のアーレントオルガンは、関係者以外はそれほど自由に、また頻繁に、聴いたり、弾いたりはできません。
  もし、カザルスホールが閉館になって、空調を止められたら、オルガンは大きなダメージを受けます。湿気とカビは大敵です。せめて、オルガンの受け入れ先が決まるまでは、空調を止めないでほしい!数カ月まえから、そんな切なる思いが、私の頭の中を占めるようになりました。
  アーレントのオルガンだけでも救いたい!私に力があったら、オルガンを救いたい!ガラ・コンサート中も、絶えず、頭に鳴り響いていた思いです。
  現代の音楽界を一刀両断に断罪し、早々とこの世から立ち去った宮下誠さん。宮下さんの「お別れの会」で、その人柄に触れ、もし私が大学時代にこんな先生に出会っていたら、私の運命は違う方向へ進んで行ったのではないかしら・・・。学生時代、こんな先生に出会いたかった、と強く思いました。宮下さんは、自分を見失っていた学生に「ありのままの自分でいいんだよ」と言って、見事に立ち直らせ、立ち上がらせました。
  日大は、カザルスホールを壊して、高層の校舎を建てるらしい。大学の経営のためには必要な手段らしい。でも、どうして壊すのがよりによってカザルスホールなのか?文化を護ることと、新しい校舎の建設と、大きな視点で捉えた場合、どちらがより重要であるのか?大学は、単なる器であってはならない。人を生かし、導き、将来この世の中を背負っていく人材を育てる所だと思います。
商業主義に流されている現代のクラシック音楽界に警鐘を鳴らした宮下さん、宮下さんならこのカザルスホールの閉館をどう捉えるのでしょうか?


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フォルテ・ピアノ
 篤志の方々のご寄付により、フォルテ・ピアノが、西方音楽館 木洩れ陽ホールに設置されました。
 クリストファー・クラーク1994年製
(A.ヴァルター1795年モデル)
 故小島芳子愛用の名器

 

 
 

館長のコーナー
 

まず、西方音楽館 木洩れ陽アップルパイ を販売します。

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「3本足のルー」が完成しました。ルーが教えてくれたことは、「子供が育つ」ということ、さらに「人間が育つ」ということへの、励ましとヒントになりました。

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リンク
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*ヒューテックの商品は、西方音楽館でも販売いたします