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アムステルダム最後の日
ヴァールセ教会
聖バフォ教会
2010年9月9日
アムステルダム最後の日
アムステルダム最後の日。午前中、国立博物館を訪れましたが、前日のゴッホの衝撃が強すぎ、淡々と鑑賞しました。
幸運はこの後突然やってきたのです。
ハーレムの聖バフォ教会の世界的にも有名なミュラー作の大オルガンは、個人的に聴いたり、弾いたりなど滅多にできない楽器なのですが、そこのオルガニスト、ヨス・ファン・デア・コーイから水無子さんに突然「お願い」の電話がかかってきて、それと交換条件のごとく、午後3時から急遽見学出来ることになったのです。
午後3時まではまだたっぷり時間があります。
トラム(市電)を降りたところに生ニシン(haringというのだそうです)のスタンドがあったので、ちょっと腹ごしらえに、それを挟んだサンドイッチを食べました。これが絶品だったのです!今回オランダ旅行中に食べた料理の中で筆頭です。
腹ごしらえの後、新教会を訪れましたが、ここは観光化し見るだけの教会でした。
次にジャック先生がオルガニストをしているヴァールセ教会(前任オルガニストはグスタフ・レオンハルト)を訪れました。ここにも同じ、クリスチャン・ミュラー作(1733-4年)のオルガンが入っています。弾きにくいので有名らしいですが・・・・・。割合大きな音がしましたが、ただ大きいだけではなく、響きの中に懐の深さを感じました。
簡単なコラール編曲やフーガを弾いてみましたが、水無子さんに弾き方をいくつか教えて頂きました。水無子さんが弾くと同じ曲なのにとてもかっこいいのです。どうしたらそんなにかっこよく弾けるのか、ほんのコツだけ習いました。鍵盤は重く、不均等にごつごつしていて、低音はちょっと押しただけでは鳴りません。なんだか、年を重ねて、経験を重ねた老紳士の、ごつごつした手のような、人間臭さを感じた楽器でした。
いよいよ電車に乗り、ハーレムにある聖バフォ教会を訪れます。現オルガニストが先程のヨス・ファン・デア・コーイ、前任オルガニストがピート・ケー。
ピート・ケーの名を聞き、私は心躍りました。これまで聴いた海外のオルガニストの中で、私が最も好きな演奏をした人なのです。いつかまたピート・ケーの弾くオルガン音楽に出会いたい!とずっと思い続けていました。水無子さんは確かピート・ケーの曲を演奏したことがあるので、伺ってみたら、ご本人を直接ご存知とのこと。また、水無子さんの先生ヨス・ファン・デア・コーイの先生でもあるとのこと。でももう高齢のため演奏活動はなさらないとのこと。これだけは残念でした。
水無子さんが演奏台へ上がりミュラー作(1735-8年)の大オルガンを弾き始めました。ダンス風の曲、運命・軍隊行進曲・トルコマーチが混ざった不思議な曲、サンサーンスの白鳥、くしき節に基づくオルガン曲、次々と弾くのを、礼拝堂で聴いておりましたら、それまで立って観光していた人たちが、座ってじっくり聴き始め、コンサートの様相を呈してきました。拍手まで出ます。私は、ミュラーのオルガンの豊かな響き、美しい響き、圧倒的響き、に全身全霊打たれたようでした。高く、広い、贅沢な空間に、大きなオルガンがその全パワーを出し切っても、うるさ過ぎる、などという言葉とは全く無縁で、ただただ、豊かで深い響きが満ち溢れるのみでした。
次に、演奏台に上がり、水無子さんの弾くバッハ作有名な「トッカータとフーガニ短調」を、バルコニーのあちらこちら響きの違いを確認しながら移動したり、時折目の前・上にそびえる巨大なパイプを見上げたりしながら、聴き惚れていました。私にも弾いてみたら、とおっしゃいますが、コンサート状態なので私の下手くそな演奏を礼拝堂の観光客に聴かせるのは忍びなく、コラールだけ弾いて、伴奏を水無子さんに弾いて頂きました。でも、だんだん心惹かれ、ロマン派の簡単な曲を弾いてみました。とても気持ちよく弾け、うれしかったです。
最後に、もう一度バッハのトッカータとフーガをリクエストし、再び礼拝堂に降りて、あちらこちら移動しながら聴きました。一番後ろで、礼拝堂全体を見渡しながら聴いた響きがとても好きでした。
この礼拝堂、天井は木です。床も前半分は木、後ろ半分が硬い石。壁は、表面がざらざらの石に漆喰が塗られていました。響きが豊かでも、響き過ぎるという感覚ではなく、心地よい奥深さのある響きなのは、木と漆喰の所以ではないかしら?と思いましたが・・・如何でしょうか?
水無子さんのご主人が車で迎えにいらして下さり、バフォ教会近くのカフェで、巨大なバフォ教会を眺めながら、ひと休みしました。本場のオルガンの響きを存分に味わい、幸せな気分にとっぷりつかり、私がここにいることが、夢であるようでした。
あっという間に過ぎたアムステルダム訪問、ご主人の運転する車で、スキポール空港へ向かいました。
アムステルダム21:00発、9月10日成田15:25着で、帰路につきました。
塚谷水無子さんが、常に行動を共にして下さいました。オランダの地で、黄色人種の女性が、キリスト教の教会で、オルガニストとしての地位を獲得するのは、並大抵の事ではないと思います。かつて奴隷が公然と売買されていた土地柄、今でも人種差別に対して罪悪感はアメリカほど無いのだそうです。水無子さんは、古典をしっかり身につけた上で、従来のオルガン音楽の枠を飛び越えて、通俗性とギリギリの境地を開拓しつつあります。批判は覚悟。度胸があると思いました。帰国後の活躍(賛否両論でしょうが)を期待しております。