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オルガン工房
2010年9月8日
オルガン工房
この日の夜は、いよいよオルガン工房を訪れて、出物のボックスオルガンを吟味します。
水無子さんが私の体調をたいそう心配して下さり、午前中ホテルでゆっくり休み、お昼からコンセルトヘボウで催されるミニコンサートに出かけ、音楽を聴きながら、再び体を休ませました。名高い大ホールではなく、小ホールの方でしたので、ちょっとがっかりしましたが、古いコンサートホールの優雅な雰囲気を味わいました。椅子は意外と座り心地が悪かったです。残響はあまりありませんでしたが、室内楽にはちょうど良いのでは?と思いました。
腹ごしらえをし、ゴッホ美術館を訪れました。ゴッホの絵を、初期から晩年まで、通して集中的に見たのは初めてでした。晩年のほんの5年くらいの間に、ゴッホは傑作を山のように残したようです。1886年パリにやってきて、色彩が急に明るくなり、アルルに移って、さらに幸福そうな豊かな色彩に変わり、最晩年、1889年あたりから死の年1890年は強烈なうねるようなタッチで、精神的極限状態をキャンパスに表しました。最晩年の絵は、私には見ていて辛すぎる程でした。ゴッホには人生の中で幸福な時というものが総じてなかったのかしら?・・・あっても、ほんの一瞬、瞬く間に消えゆくほんの一瞬だけ、なのかしら?・・・と絵を見て思いました。
衝撃的な絵の数々。かつて私は、音楽においても、美術においても、苦悩に満ちたものが好きでした。でも、今は、幸福な音楽、幸福な絵に、出会いたい!という思いが強いのです。若いころは、苦しいことがあっても、苦悩はまだ一種の憧れであったのかもしれません。今、現実の厳しさ、逃げ道のない苦しさ、というものを直に体験し、苦悩が現実となりました。この状態では、ゴッホの苦悩の絵は、私にとっては現実的過ぎるのでしょう。尋常でないゴッホの苦しみが心に突き刺さるようでした。ゴッホのつかの間の幸福そうな絵の方が、私はとても好きです。
美術館を後にし、運河を船で周り、ホテルでひと休みし、いよいよオルガン工房へ向かいます。
夜7時頃、塚谷さんの御主人が運転する車に乗り、でたらめばかりを言うナビを極力無視しつつ、7時半頃ジャック・オートメルセン先生(スヴェーリンク音楽院オルガン科教授、今回の出物のオルガンを見つけて下さった方です)宅で先生を拾い、8時頃デ・ヤング氏のオルガン工房(ライデンの近く)へ到着しました。
デ・ヤング氏は田舎風の、人のよい、ややでっぷりしたおじさんでした。オルガン製作を最近引退したばかりですが、これまで古いオルガンの修復を沢山手掛け、また、沢山のオルガンを自らも造った方です。
初め、ジャック先生が出物のボックスオルガンを弾き始めました。とても狭く、天井も低い場所に置かれていたせいか、どうもピンときません。もしかしたら、広い空間でならきれいに響くのでは?と思い、少しずつ、少しずつオルガンから離れつつ、響きの変化を確かめました。すると、離れれば離れるほどきれいに響くのです。ジャック先生も、この同じ楽器を広い教会で聴いた時は、とても美しかった、とおっしゃいます。水無子さんも、ストップを色々変えながら弾き始めました。私も、まずロマン派のオルガン曲を弾いてみました。そうしましたら、何だか、とても心地よいのです。コラール編曲を、コラールと伴奏に分けて、ストップを変えて弾いてみました(左右で異なる音色のストップが使えます)。これもうまくいきました。この楽器、小さいながら、古い時代のオルガン曲から、ロマン派の曲にまで対応できるのです。もちろん、現代曲にも対応できるでしょう。
ピッチは415, 440, 460 と、鍵盤を移動することで即座に変えられます、それゆえ平均律ではありますが・・・・・日本では、古典調律が大変好まれていますが、オランダでは、オルガンは意外にも平均律が多いのだそうです。
このボックスオルガン、機能も用途も、ポジティフ・オルガンと同じです。しかし、もう少し背が高く、アップライトピアノのような形をしていて、さらに取っ手が付いているので移動しやすいのです。造りもしっかりしていてヴァンに積めるそうです。
■仕様
- Holpijp 8 B/D(低音部/高音部)
- Blockfluit 4 B/D
- Preastant 2 B/D
- Quint 3 D のみ
- Terts 13/5 D のみ
小型ながらストップは豊富です。
即決で、購入することに致しました。