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カザルスホールにて
※コンサート会等はイメージです
2009年3月14日
カザルスホールにて
椎名雄一郎J.S.バッハ・オルガン全曲演奏会第6回「コンチェルト」をカザルスホールで聴きました。いつもは1階の中ほどの席で聴くことが多いのですが、今回は2階左側の一番後ろの席でした。いつもよりリアルな感じの音でした。
椎名さんのこのシリーズのコンサートは毎年あるのですが、家庭の事情でなかなか聴きに行けず、前回聴いたのは2006年11月25日「トリオソナタ」でした。この時の演奏は、ストップの選択が絶妙で、6曲のトリオソナタをそれぞれ美しく個性的な音色で、聴き手を飽きさせることなく、それ故6曲続けて気持ちを集中させて聴き通すことができました。トリオソナタ6曲続けて演奏すること自体なかなか出来ないことだと思うのですが、さらにどの1曲も他の曲とは異なる音楽として、それぞれ非常に質の高い内容に仕上げていることに驚嘆しました。
その時の良い印象がとても強かったので今回もとても期待しておりましたが、今回は原曲が他の作曲家で、それをバッハがオルガン用に編曲した作品が多いせいか、バッハらしいあの重厚さが感じられずそういう意味では拍子抜けしてしまいました。でも原曲から発するイタリア的、明るく、軽快な音楽に、肩肘はらずに、音楽を愉しむことができました。
ただ、心の内に憤り、哀しみを抱えて聴いたコンサートでした。
日頃、新聞に目を通す暇もなく動き回っておりますので、最初の情報がいつであったのかは知りませんでした。でも今年2月8日朝日新聞の文化面に「カザルスホール閉館へー愛された人肌の室内楽―」と題された記事を読んで、大きな衝撃を受けました。あり得ない、またあってはならないこと、と思えました。あれ程のホールが、どうして壊されなくてはならないのか、私には理解できませんでした。大学の経営、運営はとても厳しいのでしょう。でもどんなに厳しい状況でも護らなくてはならないものはあると思います。お金では買えないもの、目には見えないものの中に、どれ程大切なものが育まれていたか、またこれからも育まれるか、人は気づかず、あるいは気づいても、目先の危機に心奪われて、素通りしてしまいます。でも大学が所有しているのであれば、大学という所はそもそも、経済に還元できない学問や文化を担う所であるはずですから、なんとか護ろうとする方向へ動くべきだと思います。文化を護れない大学など、大学と称して良いのだろうか、と疑惑の思いでいっぱいになりました。
せめて他の土地へ移転させようと、援助して下さる方々は現れないでしょうか?
私が目指しているオルガンが美しく響く空間としては、物足りなさはありましたが、
それはホールが先に出来て、あとからオルガンを入れた祭に生じた問題ですので、移転に際してホールとオルガンに手を加えれば、あるいはオルガンがもっと美しく響く空間としてよみがえるかもしれません。
オルガンはJ.アーレント作、手鍵盤3段+足鍵盤、41ストップ。私が大好きな「聖グレゴリオの家」のオルガンと同じ制作者です。天才的とも言える人で、古いオルガンを修復し、美しく蘇らせた作品、またオリジナルの作品、ともに優れた作品を数々残しています。カザルスホールのこの優れたオルガンの将来が、オルガンにとって幸せであることを祈って止みません。
個人的には、数あるホールの中で、最も回数多く通った思い出深いホールです。
音響設計は永田穂さんです。