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本郷3丁目の喫茶店にて
2009年2月21日
本郷3丁目の喫茶店にて
永田さんと別れた後、永田音響設計のすぐ近くにある喫茶店で、草苅さん、野崎さん、早川さん、中新井4人で話し合いました。コーヒー専門のお店で、色々な名前のコーヒーがあるのですが、私はコーヒーの種類に疎く、また西方町には喫茶店がないので、飲んだことがないものにしよう、と思いました。そうしましたら他の3人はトラジャになさるとおっしゃいますので、私もそのトラジャとやらに挑戦してみようと思いました。くせがある、という3人の言葉もなんのその、ストレートでとてもおいしく頂きました。
オルガンホールを造ろうと思い、オルガンは草苅さんにお願いしようと決めたときから、ひとつのとても恐ろしい思いが何度も頭をよぎりました。その思いとは、私が良い、美しいと思うオルガンと、草苅さんが良い、美しいと思うオルガンとが、一致するのか否か、ということです。そこで私の乏しい経験の中でも、とりわけ魅了された、美しい音色のオルガンが、デンマーク、コペンハーゲンの東、フレデリクス城内のコンペニウスオルガンであることを告白しました。確か、吹き抜けの2階の少し奥まった所から発せられた艶のある、甘味な音が、1階の広い空間に美しく響いていました。この世にこんな美しい音が存在するのか!と思考も心の動きもひととき止まり、私の全存在がその音と一体化して時間が過ぎてゆきました(もう20年以上も前のことです)。そうしましたら草苅さんが「うーん」とうなりしばらく考えこんでしまいました。ひとしきりうなってから、「あれはとんでもないオルガンです。木管しかない小さな特殊な楽器です」とおっしゃいました。草苅さんが私の嗜好に肯定的なのか、否定的なのかはわかりませんでしたが、私の真実はお伝えしなくてはいけないと思いました。私の嗜好に偏りのあることは、自覚しています。そう、木管のやさしく、やわらかく、加えて艶やかで、品格のある甘さも備えたオルガンの音が私は最も好きなのです。でも、それだけで良いという訳ではなく、それがストップに含まれてさえいれば良いのです。
草苅さんと私のやり取りを聞いていた早川さんが「やっと解った!」とおっしゃいました。何が解ったのか、といいますと、私がずーと求め続けている、「質の良いオルガンがそれに相応しい空間に美しく鳴り響く」ということ、またその価値なのだと思います。いくらオルガンが良くても、それが置かれている空間がそのオルガンに相応しくないものであれば、そのオルガンは本領を発揮できず、余程の人でない限り、そのオルガンが良いオルガンであることを見抜くことができません。また、それ程質の高いオルガンでなくても、それが最も美しく響く空間に置かれていれば、ある程度美しく聞こえる、ということがあり得るのだと思います。多分、デンマークのフレデリクス城内のコンペニウスオルガンは両方の条件がうまく満たされているのだと思います。
人と人とは本音で話し合わなければ、思いは伝わらないのだ、と痛感したひとときでした。